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2023年6月で引退の「SL銀河」をTOMIXが製品化!

 

2023年6月で引退の「SL銀河」をTOMIXが製品化!

2023年03月16日
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走行するSL銀河

2014年春から運行を開始し約7万人を乗せた観光列車「SL銀河」が今年6月に引退に

先日ご紹介した5年振りにKATOから登場した「D51 200」と「35系4000番台 SLやまぐち号」など最近、蒸気機関車の人気の波が来ているような気がするのですが、今度はTOMIXより「SL銀河」の製品化が発表されました。
「SL銀河」は、東北の復興支援と地域の活性化を目的として、2014年4月から運行をスタートし、これまで約7万人の乗客を乗せた観光列車。
岩手県花巻市の花巻駅と釜石市の釜石駅を結ぶ、走行距離約90kmの「釜石線」で土日限定で運行している列車ですが、首都圏など東北から離れた地域にお住まいの方にはご存知のない方もいらっしゃるのではないでしょうか?
実は今年、2023年6月に「SL銀河」は運行を終了することが決まり、その個性あふれる客車のデザインから引退を惜しむ声も出ている列車でもあります。
そこで今回は「SL銀河」をあまりご存知ない方のためにも、列車の魅力も含めて詳しくご紹介したいと思います。


東北の復興支援を機に、地元で愛されていたSLが復活!

「SL銀河」を牽引するSLは「C58形239号機」。
1940年(昭和15年)6月に製造されたC58形239号機は岩手県を中心に1972年まで活躍した蒸気機関車です。
その後1973年5月からは、岩手県盛岡市にある岩手県営運動公園内の「交通公園」という子ども達が楽しみながら交通安全のルールを身につけてもらうための施設に静態保存されていました。実はC58形239号機は約40年間、静態保存されていたものを動態復元したものだったんです。

そのきっかけとなったのが2011年3月11日に起きた東日本大震災。
現在「SL銀河」が走る岩手県の中心部にある花巻市と沿岸地域の拠点都市である釜石市を結ぶ路線である「釜石線」も当時は一部が被災し運休したものの、翌月には全線での運行を再開。しかし、震災の影響は大きく、地域全体の復興が課題となっていました。
そんな中で観光面から復興支援と地域の活性化ができないかと考えたのがJR東日本。 JR東日本は、これまでに「SLばんえつ物語号」「SLみなかみ号」「SL碓氷号」など、保存を目的とした蒸気機関車の定期的な運転を行ってきた実績を生かそうと考えます。

そこで白羽の矢が立ったのが、地元で愛され、静態保存されていた「C58形239号機」。
鉄道の産業遺産である蒸気機関車を後世に伝えるというプロジェクトを震災翌年の2012年に立ち上げ、沿線エリアからも支持を得て、2012年12月には「C58形239号機」の復元工事に着手。そして2014年2月の試運転を経て、4月に運行スタート。現在に至ります。
ちなみに2014年2月の試運転の際には、沿線エリアの地元住民の方々も招待されたとか。地元で愛されてきたSLが地元の路線を力強く走る光景には、地元の方々も勇気づけられたのではないでしょうか。


釜石線の客車が動力のあるキハ141系である理由

今回、TOMIXから製品化が発表されたSL銀河の客車について「キハ143-701形は動力車で、C58形との協調用に速度調整機構装備」と記載があるのを見つけて「通常、機関車が牽引するのは動力を持たない客車なのに何故?」と疑問に思ったのですが、SL銀河の実車のことを知り「なるほど」と納得しました。
というのもSL銀河の実車では、ある理由から客車にも動力がついていたんです。

勾配10パーセントの解説図

皆さんも道路標識で見かけませんか?勾配のパーセント表記。これは水平面に対する傾きを表したものです。
例えばこちらの標識のように「10%」の場合。これは100メートル進むことで10メートルの高さまで登る傾斜だということです。ちなみに10メートルは、3階建ての建物の高さにあたります。そう考えると10%は結構、急な坂ですよね?

釜石線の勾配20パーミル越え場合の解説図

実はSL銀河の客車に動力が付いているのは、走行する釜石線の区間内に急勾配があるからなんです。そこで今回、釜石線の勾配を調べてみたのですが…

「20‰越え」

おや?「%(パーセント)」の後ろに小さい丸が付いている見慣れない単位なのですが、これは何?
これ「パーミル」という単位で、1,000分率ということ。つまり、この場合は、水平に1,000メートル進むことで20メートル以上の高さまで到達する、つまり7階建ての建物の高さまで到達する坂を走るという意味。通常の幹線系の勾配は10パーミル以下とされているので、釜石線の20パーミル越えの数値はかなりの急勾配というのが、お分かりでしょうか?
となると、通常のように客車を牽引するにはSLへの負担が大変大きく、走行自体が危うくなる可能性がある訳です。

さて、そんな過酷な坂を登るのに何か良い方法はないかと考えた結果「客車に動力があれば、SLが牽引する負担も減らせるじゃないか」となったところに救世主の登場。ディーゼルカー「キハ141系」です。
実はこのディーゼルカーはJR北海道が所有していたもので、元々は50系の客車に動力をつけた、いわゆる改造した客車。すると今度はまた別の疑問がわいてきました。

「何故、動力のない客車に動力を付けるという改造が必要だったのか?」

これもまたそうならざるを得ない当時の北海道の事情が関係しているんです。
というのも1990年頃からJR北海道では札沼線の沿線の急速な都市化に伴い、輸送力アップを行う必要に迫られます。そこで使用されずに残っていた動力のなかった客車に動力を付けてディーゼルカーに改造することで、足りない輸送力を補ったんです。
しかし札沼線は2012年に電化されたことから、今度はディーゼルカーに改造した「キハ141系」が余ってしまうんですね。
そんな中、JR東日本が釜石線を走ることになる客車の問題に直面していたことから「客車も動力車になれば、SLが牽引する際の負荷も減らせる!」と、JR北海道が持てあましていた「キハ141系」がまさかの「救世主」に。
結果、2012年の11月には北海道苗穂から郡山へ運ばれ、さらなる大改造を経て現在の「SL銀河」の客車として生まれ変わることになるのです。

今回、TOMIXから製品化される客車には実車の仕様を踏まえて動力が付くわけですが、客車に動力がつく鉄道模型はかなりレアなタイプとなるので、実際にどんな走りになるのか想像してみるだけで私もワクワクしてしまいます。
例えばですが…実際の釜石線と実車に想いを馳せて、勾配が厳しめの区間をジオラマを作成し、車両を走行させるという楽しみ方もできそうですね。


「宮沢賢治の世界観」に触れられる魅力的な客車

田園を走行するSL銀河

さて、SL銀河の客車。実は車両の外装から内装と、ひとつひとつ見ていくと、このSL銀河が走る岩手県花巻市出身の作家、宮沢賢治の世界観に触れられるよう作られた客車であることがよく分かります。
例えば車両の外装。夜空をイメージしたブルーをベースとした車両なのですが、よく見ると1両目から4両目まで微妙に色が異なっているのが分かりませんか?
これは宮沢賢治の代表作「銀河鉄道の夜」をテーマに、トーンが異なる8色の青を塗り分けて、夜から朝へと変化する空を表現しているからなんです。

SL銀河の客車の車両の側面に描かれた星座や動物のモチーフ

そして車体側面には「銀河鉄道の夜」の物語に登場する星座や動物のモチーフが描かれています。 そして1号車には、世界で初めて光学式プラネタリウムを搭載。「銀河鉄道の夜」をイメージしたオリジナルのプログラムを10分程度の上映し、各車両にはギャラリーも併設されており、列車に乗りながら、乗客が思い思いに宮沢賢治の世界を楽しめる車両となっているんです。

SL銀河の車内に併設されたギャラリーの一部

SL銀河の車内の座席部

お年を召した方には懐かしく、そして若い方には新鮮なちょっと昔のレトロな世界観は近年、ブームにもなっていますよね。
実はSL銀河の車内の座席や装飾は、宮沢賢治の生きた大正から昭和のレトロな世界観を表現しているんです。思えば「銀河鉄道の夜」の中で、赤いビロードを貼った座席の表現が登場するので、車内の座席にもそれが反映されているのかなと思ってみたり。
こうしてひとつひとつ、注意深く見ていくと、この車両が地元に根差し、そして地元が育んだ作家、宮沢賢治の世界観をとても大切にしていることがひしひしと伝わってきますね。

「銀河鉄道の夜」に登場する橋のモデル「めがね橋」

SLが走る風景というのは。思わずカメラにおさめたくなる風景ですよね。
こちらの写真は、SL銀河の撮影スポットとして有名な釜石線沿線にある橋。1915年(大正4年)に竣工、1943年(昭和18年)に改修された宮守川橋梁です。地元では親しみを込めて「めがね橋」なんて呼ばれています。 その橋の中で3基現存している石造の橋脚は、旧橋のもので、実はこの旧橋は「銀河鉄道の夜」のモチーフにもなった橋なんです。
そう思うと、SL銀河の世界観は沿線の風景もセットなんだなぁとも思ってみたり。

とはいえ、2023年6月で引退が決定している現在、この光景を目にすることができるのも、あと3か月もないと思うと寂しい気もしますね。
引退前にぜひ乗車してみたいという方もいらっしゃるかもしれませんが、「SL銀河」は全席指定のため、乗車券の他に指定席券が必要。指定席券は乗車日の一か月前の10時より発売されますが、元々人気だった列車の引退が発表され、入手が困難となっています。

SL銀河について「元々知っていたけど、遠方に住んでいて実車に乗るのは厳しいなぁ」という方、または「岩手を訪れた時に、実車に乗ったことあるよ」という方、そして今回のご紹介で「SL銀河」を初めて知って興味を持ってくださった方など、様々な方がいらっしゃると思います。 実車は引退しますが今回、TOMIXから製品化が発表された「C58形239号機」とSL銀河用客車である「キハ141系旅客車」を、ぜひこの機会にセットで手に入れて、ご自宅で走る姿を楽しんでみてはいかがでしょうか? ブルーカラーの美しいグラデーションが特徴的なSL銀河の走る姿を、いつでもお好きな時に楽しむことができますよ。現在、ご予約受付中ですので、ぜひこの機会をお見逃しなく!

今回は今年の6月に引退を迎えるSL銀河についてご紹介しました。



C58形蒸気機関車(239号機)

約40年の静態保存されていたものを復興支援の一環で動態復元。2014年春からSL銀河の牽引機として活躍し、2023年6月に運行終了予定の蒸気機関車。

キハ141系旅客車(SL銀河用客車)セット(4両)

復興支援の一環で動態復元されたC58形蒸気機関車の客車として2014年春からSL銀河として活躍し、2023年6月に運行終了予定のキハ141系。